がんゲノム医療におけるがん遺伝子検査
がんの原因となる遺伝子の異常を、特異的な配列をターゲットとして増幅させます。分子標的薬類の抗がん剤は特定な原因で発生したがんのみに大きな効き目を持つため、その原因によって発生したがんかどうかを判断する検査に用いられ、その結果の陰性/陽性によって分子標的薬の不使用/使用を決めます。
がんゲノム医療で使われる分子標的薬
分子標的薬とは、がん細胞特有のタンパク質を攻撃する事によって、がん細胞の異常な分裂や増殖を抑えることを目的とした治療薬です。
「遺伝子とは」の記事の中で語られたように、タンパク質は細胞の歯車です。
その中には、細胞の活動が必須のタンパク質もあり、そのタンパク質の機能を停止させれば、大事なネジが外れた機械の様に、細胞が壊れてしまい活動停止になります。
分子標的薬のポイントとは、がん細胞だけが持ってる歯車(重要なタンパク質)を狙い、正常な細胞になるべく危害を与えないという所です。
分子標的薬と一般抗がん剤の違い
従来の伝統的な抗がん剤を使用する治療は「化学療法」と言い、分子標的薬を使用する治療は「がんゲノム医療」です。
伝統的な抗がん剤:化学療法
伝統的な抗がん剤は、基本的に細胞全般に毒性(または増殖抑制)を持っており、正常細胞やがん細胞に対しても同じ殺傷効果があります。
しかし、がん細胞の増殖が正常細胞より圧倒的に速いので、両方を殺傷した方が結果的にがん細胞に対する効果が大きかったりするので、治療法として成り立っています。
分子標的薬:がんゲノム医療
がん細胞の特定の分子だけを狙い撃ちにするので、正常な細胞へのダメージが少なく、従来の抗がん剤と比べると体への負担も少なくなっています。
また、薬の強さは結局化学療法で使われる伝統的な抗がん剤が強かったりするので、分子標的薬と伝統的な抗がん剤を併用する場合もあります。
分子標的薬の使用に必ずがん遺伝子検査が必要
同じ部位のがんでも、遺伝子変異パターンが異なります。
それによって、がん細胞同士でも、歯車(タンパク質)が違ってたりします。
故に、分子標的薬がこのがんに効くが、別のがんに聴かなかったりします。
実例:肺がん-EGFR遺伝子変異-EGFR阻害薬
肺がんの中には、約5割がEGFR遺伝子変異の特徴があります。
EGFR遺伝子変異すると、がん細胞の表面には細胞増殖を促進させる「アンテナ」みたいなタンパク質(上皮成長因子重要体)が出来上がります。
EGFR阻害薬(例:イレッサ、分子標的薬の一種)その「アンテナ」を攻撃し、肺がん細胞の増殖を阻止し、がんの治療作用を示すことが出来ます。
しかし、EGFR遺伝子変異ではない肺がんもあります。この場合、EGFR阻害薬を投与しても、その肺がんには効き目がありません。
そこで、患者にEGFR阻害薬を投与していいかどうかを判断する為に、EGFR遺伝子変異をチェックする事が必要です。
がん遺伝子検査を用いた治療手順
がん遺伝子検査は基本的にPCR法で行います。
EGFR遺伝子変異の例を挙げると:
- 変異したEGFR遺伝子配列の特異的な並びに対し、PCR法で増幅させ、検出します。
- 増幅が確認された場合、EGFR遺伝子変異が確認されたため、EGFR阻害薬を投与してOKです。
- 増幅が確認されなかった場合、EGFR遺伝子変異が確認されず、EGFR阻害薬の投与はNGです。
分子標的薬とがん遺伝子検査項目の実例
- 〇〇〇(がん遺伝子)変異:PCRで変異が認められた場合に選択可能な分子標的薬(一般名)
急性骨髄性白血病
- FLT3遺伝子変異:ギルテニチニブ
慢性骨髄性白血病
- Major BCR-ABL融合遺伝子変異:イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、ポナチニブ
悪性黒色腫
- BRAF遺伝子:ダブラフェニブ、ベムラフェニブ
乳がん
- HER2遺伝子:トラスツズマブ
卵巣がん
- BRCA1/2遺伝子:オラパリブ
肺がん
- ALK融合遺伝子変異:クリゾチニブ
- EGFR遺伝子変異:ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ
- ROS1融合遺伝子変異:クリゾチニブ
- BRAF1遺伝子変異:ダブラフェニブ
大腸がん
- K-ras遺伝子変異、RAS遺伝子、BRAF遺伝子:セツキシマブ
GIST(消化管間葉系腫瘍)
c-kit遺伝子:イマチニブ、スニチニブ、レゴラフェニブ
胃がん
- HER2遺伝子:トラスツズマブ
参考サイト:国立がん研究センター